請求棄却
抜粋
1 事案の概要
本件は,意匠に係る物品をヘアキャッチャーとする意匠登録第1620963号の意匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の販売等が本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項に基づき被告製品の販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品及びその半製品の廃棄並びに民法709条に基づき損害賠償金及び遅延損害金を請求する事案である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか)について
(1)略
(2)本件意匠被告意匠の構成は,同本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は一致する。
また,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,・・・他方で,本件意匠と被告意匠の具体的構成態様は,①被告意匠には,各斜面体の反時計方向側の外周部に,堰部が形成されているが,本件意匠には堰部が存在しない点(以下「差異点1」という。),
(5)・・・本件意匠の具体的構成態様のうち,具体的構成態様①及び②は,需要者の関心が高い部分である渦流生成部の形状等である。また,その形状等のうち,渦流形成部が渦状壁を有さず斜面体のみで構成される形状等については,公知意匠があったことは認められない。したがって,渦流生成部を形成する斜面体が,段差構造のみによって境界を形成するものであり,斜面体を区切る構造体がないとの形状等は特に注意を引くべきものといえる。
⑹ 前記(1)から(5)を踏まえて,本件意匠と被告意匠が全体的な美感を共通にするかについて検討する。
・・・本件意匠が上記の形状等であるのに対し,被告意匠においては,本件意匠と異なり,斜面体の外周部には,堰部が設けられている。斜面体の段差構造によって境界を形成するか,別に堰部を設けるかは,その形状等自体が明確に異なるものである。ヘアキャッチャーの需要者は,それが排水口の上に設置された際等も含めてその真上からだけでなく,やや斜め上から見る場合も多いといえるところ,斜視図等(別紙本件意匠,本件意匠説明図,被告意匠目録,被告意匠説明図,本件意匠・被告意匠対照表)に特に明らかなとおり,需要者は,本件意匠の渦流生成部は平面状の斜面体のみで構成されるやや平板な段差構造であることを認識するのに対し,被告意匠では,斜面体の外周部に斜面体に対し垂直方向に突出する堰部があることを認識し,斜面体から堰部が突出していること及び堰部によってもたらされる別の斜面体との段差が強く印象付けられる。また,本件意匠では,斜面体のみで渦状模様を生じさせるものであり,渦流生成部が平面状の斜面体のみからなり,渦状模様もあっさりした印象を与える。これに対し,被告意匠では,堰部によって各斜面体が明確に区別され,堰部自体も斜面体と独立して渦状模様を顕出させるものであって,このことにより斜面体と堰部それぞれによって二重の明確な渦状模様を生じさせるという印象を与えるものである。したがって,差異点1は,本件意匠と被告意匠の類否判断に大きく影響を与える。
本件意匠
斜視図
被告意匠
斜視図
コメント
本件意匠における渦流生成部の斜面体60は段差構造によって境界を形成し、斜面体を区切る構造体がないという形状について、公知意匠があったとは認められず、特に注意を引くべきものとした。その上で、本件意匠の渦流生成部の形状は平板の斜面体のみで構成されるのに対し、被告意匠では垂直方向に突出する堰部があり、本件意匠では平面状の斜面体のみからなり渦状模様もあっさりした印象を与えるのに対し、被告意匠では、堰部によって斜面体が明確に区別され、二重の明確な渦状模様を生じさせる印象を与えるとした。このような差異点から受ける印象が共通点から受ける印象を凌駕するので、被告意匠は本件意匠に類似していないと判断された。このような考え方は他の件の類比判断とも整合していると思われる。