知財高裁
原告の請求を棄却する。
発明の名称「ゲームプログラム,ゲーム処理方法および情報処理装置」
2 取消事由1(新規事項追加についての判断の誤り)について (下線は筆者が付加)
(1) 証拠(甲7,10)によると,当初出願については,令和2年4月1日付け補正によって,「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項が追加され,それが本件補正でも維持されていたことが認められる。
「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との記載からすると,新たな発明特定事項は,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」という名前のついたものに記憶させる,すなわち,「特定のアイテム」を「ユーザに関連付けられたアイテムボックス」に収納することをいうと解することができる。
したがって,新たな発明特定事項は,「『特定のアイテム』を『ユーザに関連付けられたアイテムボックス』に収納する」ことを特定していると認められる。
(2) 当初明細書には,「アイテムボックス」について,段落【0051】にのみ記載がある。
そして,「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」との記載から,当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。このことは,「ユーザが保有することができるカードの数には上限がある」(段落【0005】)との記載とも整合すると認められる。 一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。
そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。
そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。
コメント
補正により追加された発明特定事項に関し、新規事項追加について争われた事案である。認定の通り、明細書には、「特定のアイテムは、上限なくユーザが所持可能とすることができる」と記載されていた。明細書には、さらに、「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」とも記載されていた。従って、当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解されると判断された。このように、補正の際に、構成要素が関連するように補正されるのに対し、関連させることに相矛盾する記載がある場合には、補正が当初明細書等の記載事項範囲内にものではないとされる可能性があることに注意すべきである。仮に出願時に当該発明特定事項の内容が意識されていたのであれば、変形例等として「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶する」態様についても記載しておくべきであった。なんでもかんでも変形例を記載する必要はないが、公知技術との差異になりそうな部分については変形例を充実させたり、意図した解釈が可能となるような記載をしておくことは重要である。