特許出願の非公開に関する基本指針(案)の概要
特許出願の非公開制度(令和6年に制度運用が開始予定)については、内閣府内閣官房より特許出願の非公開に関する基本指針(案)の概要が公開され、パブコメの募集及び結果の公表等もされています。
特許出願の非公開に関する基本指針案については、こちらのサイトでご覧になれます。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai5/siryou4.pdf
また、現時点で議論されている内容については、法第65条第1項の規定及び経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(令和4年9月30日閣議決定。以下「基本方針」という。)等を参考にしています。
特許出願を非公開にするということで非常に注目度が高い精度であるので、現時点で公開されている情報を多少整理しておくものです。基本方針は案でありますので、あくまでも内容の理解のために現時点での情報を整理するためのものであり、最終的な内容についてはご自身でご確認ください。
経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律
特許出願の非公開制度については、特許法ではなく、令和4年5月11日に成立し、同月18日に公布された経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号。経済安全保障推進法)において規定される。
そして、制度の基本的な考え方を明らかにするため、法第65条第1項の規定及び経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(令和4年9月30日閣議決定。以下「基本方針」という。)等が公表されている。
本制度制定の趣旨
本制度は、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明につき、特許権という財産的権利の付与を国が行う仕組みに着目し、発明者ないしその権利の承継人等が特許出願を行った場合に限定して、特許手続を留保し、情報流出防止の措置を講ずるものである。
保全指定
国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明については保全指定がなされる。保全指定がなされると、特許出願人を含む当該発明の関係者は、発明の内容の開示や実施を原則として禁止される。
保全指定がなされる場合は、特許出願に係る明細書等に「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められた場合である(法第70条第1項)
機微性の要件
機微性の要件は、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいこと」とされている。なお、このような発明が含まれ得る技術分野として「特定技術分野」(後述する)が定められる。
機微性の要件を満たすことを前提としつつ、その機微性の程度と保全指定をすることによる産業の発達への影響等との総合考慮により、情報の保全をすることが適当と認められた場合に保全指定をするものと定めている。
機微性の要件で想定されている類型は例えば以下のものである。
我が国の安全保障の在り方に多大な影響を与え得る先端技術
例えば、武器のための技術であるか否かを問わず、いわゆるゲーム・チェンジャーと呼ばれる将来の戦闘様相を一変させかねない武器に用いられ得る先端技術や、宇宙・サイバー等の比較的新しい領域における深刻な加害行為に用いられ得る先端技術など
我が国の国民生活や経済活動に甚大な被害を生じさせる手段となり得る技術
例えば、大量破壊兵器への転用が可能な核技術など
「産業の発達に及ぼす影響等の考慮」の要件
保全指定の要件には、「産業の発達に及ぼす影響等の考慮」の要件が含まれる。
「産業の発達に及ぼす影響」については、
①特許出願人を含む当該発明の関係者の経済活動に及ぼす影響
②非公開の先願に抵触するリスクに関して第三者の経済活動に及ぼす影響及び
③我が国におけるイノベーションに及ぼす影響
という3つの観点から総合的に考慮する。
「産業の発達に及ぼす影響等」の「等」については、「その他の事情」として、例えば、情報が既に広く知られており、保全の実質的な意義が小さい場合等、対象となる発明の管理状況等、保全指定の実効性に関わる事情が考慮される。
特定技術分野
「特定技術分野」とは、「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの」をいう(法第66条第1項)。
すなわち、「特定技術分野」とは、保全指定の要件「公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明」が、含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものである。
保全指定の条件を満たし得る発明をあらかじめ技術分野という角度から類型化して国際特許分類の形で示し、特許庁長官が行う第一次審査において定型的な形で審査を可能にさせるとともに、特許出願人の予見性を確保するのが、特定技術分野の役割とされている。
まずは特許庁において、特定技術分野に該当するものを定型的に選別し、選別されたものだけを内閣総理大臣に送付して保全審査に付すという二段階審査の仕組みが採用されている。
保全審査に付される発明は、保全指定前における外国出願の禁止(以下「第一国出願義務」という。)の対象となることから(法第78条第1項)、特定技術分野は、第一国出願義務の範囲を絞り込む役割も担っている。
つまり、特定技術分野に含まれる発明は、外国出願の禁止「第一国出願義務」の対象となる。
「特定技術分野」は、「国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い」とされており、国際特許分類と決まってはいないようである。
付加要件
一部の「特定技術分野」にのみ適用される付加的な要件が規定される。
保全審査に付する事由として、特定技術分野に属する発明という要件に加え、「その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る」とされている。
つまり、「保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野」においては、例えば、当初から防衛・軍事の用に供する目的で開発された場合や、国の委託事業において開発された場合など、発明の経緯や研究開発の主体といった技術分野以外の角度からの絞り込みを付加することが検討されている。例えば、宇宙・サイバー等の領域における技術などでは、付加要件が課されることが検討されている。
従って、付加要件の条件を満たす場合に限って適用される「特定技術分野」を定めることができる。すなわち、特定技術分野は、付加要件がないものと、付加要件があるものの2種類に分かれる。
保全審査
保全審査は、①法第66条第1項本文に規定する発明が特許出願に係る明細書等に記載されている場合、又は②特許出願とともに同条第2項前段の規定による保全審査に付することを求める旨の申出があった場合等に、特許庁長官が出願書類を内閣総理大臣に送付することにより開始される(法第67条第1項)。
つまり、保全審査は、申出によっても開始される可能性がある。
保全審査の実施に当たっては、内閣総理大臣は、発明の内容に応じて、安全保障や対象技術について専門知識を有する関係行政機関への必要な情報提供要請や協議を行い、その知見を十分に活用して審査を行うこととなる(法第67条第3項、第6項)とされている。
保全審査を実施する上では、発明の内容や性質の把握のため、特許出願人との丁寧な意思疎通が重要であるとされている。また、、特許出願人にとっても、予見性の確保の観点から、審査担当官と随時意思疎通を図りながら審査を受けることが望ましいと考えられるとされている。
従って、保全審査においては、出願人と、審査担当官とのコミュニケーションがなされることが想定されている。
保全対象発明となり得る発明の内容の通知がなされると、それ以降、保全審査が終了するまでの間、通知で明示された発明の内容を公開することを禁止される(法第68条)。
以上、保全審査までの概要を説明しました。保全指定がなされる場合の決定プロセスについての理解が深まれば幸いです。なお、内閣府から発表されている現時点での情報に基づいており、最新情報については自己責任でご確認ください。