平28(ワ)14868号「人脈関係登録システム」事件

損害賠償請求事件 東京地裁

メッセージを送信した「とき」とは、条件か、同じころ、の意味か

本件各発明の構成要件

    ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,頭書の記号に従って,「構成要件1A」などという。)。

 1A  登録者の端末と通信ネットワークを介して接続し,

 1B  登録者ごとに,当該登録者の識別情報と,当該登録者と人間関係を結んでいる他の登録者の識別情報とを関連付けて記憶している記憶手段と,

  を備えたサーバであって,

 1C  第一の登録者が第二の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを第一の登録者の端末(以下,「第一の端末」という)から受信して第二の登録者の端末(以下,「第二の端末」という)に送信すると共に,第二の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第二の端末から受信して第一の端末に送信する手段と,

 1D  上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段と,

 1E  上記第二の登録者の識別情報を含む検索キーワードを上記第一の端末から受信し,この第二の登録者の識別情報と関連付けて記憶されている第二の登録者と人間関係を結んでいる登録者(以下,「第三の登録者」という)の識別情報を上記記憶手段から検索し,検索した第三の登録者の識別情報を第一の端末に送信する検索手段と,

 1F  上記第一の登録者が上記第三の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを上記第一の端末から受信して上記第三の登録者の端末(以下,「第三の端末」という)に送信すると共に,第三の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第三の端末から受信して第一の端末に送信したとき,上記記憶手段に記憶されている上記第一の登録者の識別情報と上記第三の登録者の識別情報とを関連付ける手段と,

 1G  を有してなることを特徴とする人脈関係登録サーバ。

第5  当裁判所の判断 

中略

   (1)  「送信したとき」の意義について

    ア 構成要件1Dは,「上記第二のメッセージを送信したとき,上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段と,」というものであり,「第二のメッセージを送信したとき」に,第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとされている。

  また,構成要件1Fは,第一の登録者と第三の登録者の関連付けをする場合について,「第三の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第三の端末から受信して第一の端末に送信したとき,上記記憶手段に記憶されている上記第一の登録者の識別情報と上記第三の登録者の識別情報とを関連付ける」ものとしており,構成要件1Dと同様に,サーバが「第二のメッセージを・・・送信したとき」に,第一の登録者の識別情報と第三の登録者の識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶するものとされている。

  ここで,第一の登録者を会員A,第二の登録者又は第三の登録者を会員Bとすると,本件発明1においては,サーバが,会員Aが会員Bと人間関係を結ぶことを希望する旨のメッセージである「第一のメッセージ」を受信して同メッセージを会員Bの端末に送信し,上記サーバが,会員Bがこれに合意する旨のメッセージである「第二のメッセージ」を受信して,同メッセージを会員Aに「送信したとき」に,会員Aの識別情報と会員Bの識別情報とを関連付けて記憶手段に記憶する,ということができる。

    イ ところで,広辞苑第六版(甲9)によれば,「とき」とは,「(連体修飾語をうけ,接続助詞的に)次に述べることの条件を示すのに使う。…の場合。」を意味するものであり,また,大辞林第三版(甲10)においても「(連体修飾句を受けて)仮定的・一般的にある状況を表す。(...する)場合。」とされており,用字用語新表記辞典(乙22)では「『とき』は条件・原因・理由・その他,『場合』よりも小さい条件のときに用いることがある。」,最新法令用語の基礎知識改訂版(乙23)では「『時』は時点や時刻が特に強調される場合に使われるのに対して,『とき』は一般的な仮定的条件を表す場合に使われる。」と記載されている。これらからすれば,構成要件1D及び1Fにおける「送信したとき」の「とき」は,条件を示すものであると解するのが相当である。

    ウ この点に関して原告は,「送信したとき」の「とき」は「同じころ」という意義を有するものであり,「ある程度の幅をもった時間」を意味すると主張する。

  たしかに,広辞苑第六版及び大辞林第三版には,上記イで指摘した意義の他に,原告が主張するような意義も掲載されている(甲9,10)。しかし,広辞苑第六版(甲9)には「おり。ころ。」を意味する「とき」の用例として「ときが解決してくれる」「しあわせなときを過ごす」といったものが掲載されており,「送信したとき」のような具体的な行為を示す連体修飾語を受けた用例は記載されていない。また,大辞林第三版(甲10)をみると「ある幅をもって考えられた時間」を意味する「とき」の用例として,「将軍綱吉のとき」「ときの首相」「ときは春」などというものが掲載されており,やはり「送信したとき」のような具体的な行為を示す連体修飾語を受けた用例は記載されていない。

  そして,抽象的で,空間的及び時間的に広い概念を表現した上記各用例と比べると,「送信したとき」という表現は,その指し示す行為が相当程度に具体的かつ直接的であることから,およそ用いられる場面が異なるというべきである。

  また,原告が指摘する審決(甲11)には,「とき」という用語について「ある程度の幅を持った時間の概念を意味する」旨の判断がされているが,当該審決は,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに,前記転送手段によって前記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定する」という記載における「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに」という文言について,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されると『同時』又は『間をおかずに』」という意味ではなく,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始され」た後,「前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定する」までの間に他の処理がされるとしても,「前記9個の可変表示部の可変表示が開始されるときに」に当たると判断したものであって,「前記転送手段によって前記判定領域に転送された前記特定表示態様判定用数値情報を読み出して判定」した後に「前記9個の可変表示部の可変表示が開始され」たとしても,上記文言を充足するなどと判断したものではないから,本件における「送信したとき」の解釈において参酌することは相当ではない。

  そうすると,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」における「とき」が「ある程度の幅をもった時間」を意味するものということはできない。また,本件明細書等1をみても,「送信したとき」の「とき」について,「条件」ではなく「時間」を意味することをうかがわせる記載はない。

  したがって,原告の上記主張は採用することができない。

    エ 以上から,構成要件1D及び1Fの「送信したとき」とは,「送信したことを条件として」という意義であると認めることが相当である。

今後に生かすポイント

 「とき」は、条件を示すのに使う。

 「とき」と「時」との使い分けに注意する。

 広辞苑や大辞林の定義は常に意識しておく。

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