平28(行ケ)10153号「バケツ」事件 審決取消請求事件

意匠登録を無効とした審決の取消訴訟において、引用意匠との類否が判断された事例

第5  当裁判所の判断

   (2)  両意匠の類否

中略

 また,両意匠は共に,本体部周側面及び蓋部の全体に一様の細い筋状の凹凸形状を形成しているところ,平成6年度には,同様の形状を備えた被告製品が「グッドデザイン賞」を受賞しており,そこでは,「段ボール紙のギャザー形状をテクスチュアとして取り入れ」た点が評価されていることや(甲35),平成22年度には,引用意匠1に係るバケツと同様のバケツ(被告製品)が「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しており,そこでも,色鮮やかさと共に「段ボールの並々(判決注:「波々」の誤記と認める。)をモチーフにデザインし」ている点などが評価されていること(甲9)を考慮すれば,上記の形態(本体部周側面及び蓋部の全体に一様の細い筋状の凹凸形状を形成している点)は,各受賞の時点で,それなりに印象度の強い特徴的なデザインとして受け止められていたものと認められる(なお,原告は,前記「段ボールのギャザー形状」との表現や「段ボールの並々」との表現について,いずれも単なる「凹凸形状」ではなく,「段ボールから作った手作りクラフト品のような,柔らかくて温かみのある印象」や「当該バケツの波打った柔らかい印象」が評価されている旨主張するが,いずれの受賞の時点においても,外観全体に「凹凸形状」を備えたバケツがありふれていたことを示す証拠はなく,これによれば,前記の各表現は単なる比喩であって,「凹凸形状」の具体的差異に着目した表現ではないと認めるのが相当である。)。

  そうすると,本件共通点のうち,特に,「本体部周側面及び蓋部の全体に,一様に凹凸形状を形成」している点(共通点(A)),本体部の「全高(上端縁部を除く。)にわたる縦方向の細い筋状の凹凸形状を周方向に連続して多数施した」ものである点(共通点(B))及び蓋部は「本体部上端縁と略同径の円板状」とし,しかも,「その表裏の表面ほぼ全面を細い筋状の凹凸形状に形成」している点(共通点(C))は,本体部と蓋部の外観全体を通じて統一感を感じさせる独特の形態であって,意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し,看者(需要者)の注意を強くひく構成態様であると評価することができる。

  他方,本件差異点は,いずれも,取っ手の両端部の態様や取っ手の明暗調子(差異点(ア)及び(エ)),本体部と蓋部の凹凸形状の態様(差異点(イ)),蓋部の裏面の態様(差異点(ウ))といった,両意匠を全体としてみれば,限られた部分,あるいは目立ちにくい部分における細かな差異(細部における差異)にすぎず,これらを総合しても,上記の共通点を凌駕するほどの印象を看者(需要者)に与えるものとは認められない。

中略

   イ 原告の主張について

中略

本件登録意匠の出願前から,本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成されたバケツが既に複数公知となっていることから,単に「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は,本件登録意匠と引用意匠1のみに存在する共通点ではないなどと主張する。・・・③の主張は,要するに,「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は,本件登録意匠の出願前に既に複数公知であるから,類否判断を行う上で重視すべきではないとの主張と解されるが,複数公知になるだけで直ちに意匠上の要部でなくなるとはいえず(ヒット商品こそ,往々にして模倣品が現れることを考えれば当然である。),飽くまで上記の点が本体部と蓋部の外観全体を通じて統一感を感じさせる独特の形態であって,意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し(このような評価を否定するに足りるほど,上記の点が陳腐化していたことを認めるに足りる証拠はない。),看者の注意を強くひく構成態様であると評価される以上,これを両意匠に共通してみられる特徴的部分であるとして類否判断を行うことは当然である。

参考点

原告は、「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は,本件登録意匠の出願前に既に複数公知であるから,類否判断を行う上で重視すべきではないと解される主張をしているのに対し、裁判所は、複数公知になるだけで直ちに意匠上の要部でなくなるとはいえないとして、公知になっている部分についても両意匠に共通してみられる特徴的部分であるとして類否判断を行っている。従って、公知意匠に開示されている部分であっても直ちに意匠上の要部でなくなるわけではない点に注意が必要である。

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