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令3(行ケ)10067号「インジェクターカートリッジ」事件

意匠権に関する判例

審決取消請求事件 知財高裁
禁反言の法理の適用がされなかった事案

第5  当裁判所の判断(下線は筆者が追加)

 1  本件審決は,本願意匠が引用意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当するから意匠登録を受けることができないと判断した。

  そこで検討するに,意匠は物品と一体をなすものであるから,登録出願前に日本国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として,意匠法3条1項により登録を拒絶するためには,まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし,更に,意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない(最高裁判所昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照)。

  そうすると,物品の同一性又は類似性の認定に誤りがある場合には,意匠法3条1項該当性の判断に誤りがあるというべきである。

 2(1)  原告は,本件審決が,本願意匠に係る物品について「医療用注射器の外筒」と認定したことが誤りであると主張し,これに対し被告は,①本件審決は,本件願書等の記載から本願意匠に係る物品を「医療用注射器の外筒の用途及び機能を有するもの」と認定したところ,この判断に誤りはなく,②原告が,本件意見書や本件審判請求書で本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共通する」などと主張していたことは上記①の認定を裏付けるものであり,原告が,本訴において,本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることは禁反言により許されないなどと主張している。

    (2)  そこで検討するに,本件意見書や本件審判請求書において,原告は,本願意匠と引用意匠の物品が「注射器等に用いられるカートリッジ」であって「物品が共通する」などと主張していたことが認められるが(乙5,7),意匠登録出願についての拒絶理由の存否は,審査官が職権により判断すべきものであって(旧法17条),出願人が審査段階又は審判段階において述べたことについて自白の拘束力が働くものではない上,権利行使の当否ではなく権利設定の適否が問題となる審決取消訴訟である本件において,被告は行政庁として対応しているものであって,本願意匠の意匠に係る物品につき,査定及び審判の各段階における原告の主張が本訴における主張と異なるものであったことにより被告の利益が不当に害されるとの関係もないことからすると,本件意見書や本件審判請求書における上記の原告の主張をもって,禁反言の法理の適用などによって原告が本訴において本件審決以前にしていた主張と異なる主張をすることが許されないとまでいうことはできない。

  また,被告以外の第三者との関係において,禁反言の法理が適用されることにより,原告が本願意匠に係る意匠権を行使する場面に制限を受けるおそれがあるとしても,特定の当事者間における権利行使の制限の当否と権利の付与の適否とは,およそ場面が異なるのであるから,直ちに本願意匠について,意匠権登録による保護を与えるべきではないなどということはできない。

    (3)  さらに,審決取消訴訟の審理対象は,当該審決の判断の違法であり,その範囲は当該審判手続において具体的に争われた拒絶理由に限定されるものであるから(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),各当事者は,審判手続において具体的に争われていない拒絶理由を主張することは許されないものの,審判手続において具体的に争われた拒絶理由に係る判断の当否に係る主張やそれを裏付ける証拠の提出についてまで制限を受けるものではない。そして,原告の,本願意匠の意匠に係る物品が「自動注射器等の内部に挿入される,交換可能な薬液溶液」であり,引用意匠に係る物品である「注射器用シリンジ」とは異なる旨の主張は,本件の審判手続について争われた拒絶理由である「引用意匠との類似」に関する主張であって,審理対象に含まれない事項に係るものではないから,この観点からも原告の主張を制限する理由はない。

    (4)  そこで,以下,原告が,本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品が異なると主張していることを前提として,本願意匠に係る物品について検討する。

今後に生かすポイント

  拒絶査定不服審判の審決取消訴訟において、本願意匠の意匠に係る物品につき,本件意見書や本件審判請求書における主張と異なる主張をしても,禁反言の法理の適用はされず、原告の主張が認められた。本件は拒絶査定不服審判の審決取消訴訟であるという点は気を付ける必要がある。

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