商標の類否判断事例

商標の類否判断について商標の類否判断事例を見やすい形で蓄積しておくことで、結合商標の類否判断の微妙なケースの判断の精度を高めることを目的としています。

目次

最判昭和38・12・5 昭和37 (オ) 953 リラ宝塚事件

結合商標:称呼、観念において類似

本件商標引用商標
以下判示事項

商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されないのは、正に、所論のとおりである。しかし、簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

最判平5・9・10 平成3年 (行ツ)103 「SEIKO EYE事件」

結合商標:外観、称呼、観念において非類似

本願商標引用商標
以下判示事項

審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。
 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKO EYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。・・・本願商標から、「SEIKO EYE」若しくは「SEIKO」の称呼、観念が生じないこと、本願商標と審決引用商標とが外観において類似していないことは明らか・・・

最判平20・9・8 平成19年 (行ヒ)223 「つつみのおひなっこや事件」

結合商標:外観、称呼において非類似

本件商標引用商標
以下判示事項

法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。・・・本件商標について、その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから、本件商標と引用各商標の類否を判断するに当たっては、その構成部分全体を対比するのが相当であり、本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。

平成 25年 (行ケ) 10322号 審決取消請求事件

結合商標:引用商標に類似

本件商標引用商標
以下判示事項

本件商標の要部を「Tivoli」の文字部分のみであると認定し、引用商標に類似と判示した。

知財高判平27・11・5 平成 27年 (ネ) 10037号

被告商標は原告商標に類似しない

原告商標被告商標
以下判示事項

原告商標の上段部分の「ラドン健康パレス」及び下段部分の「湯~とぴあ」の各部分は,指定役務との関係では,いずれも出所識別力が弱いものであって,両者が結合することによってはじめて,「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるから,原告商標における「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」は不可分一体として理解されるべきものである。したがって,原告商標については,上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯~とぴあ」の部分を分離観察せずに,全体として一体的に観察して,被告標章との類否を判断するのが相当である。・・・

被告標章の上段部分のうち,「湯~トピア」及び「かんなみ」の各部分は,同様の字体で,1行でまとまりよく記載されている上に,いずれも出所識別力が弱いものであって,両者が結合することによってはじめて,「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるから,被告標章における「湯~トピア」と「かんなみ」は不可分一体として理解されるべきものである。したがって,被告標章の上段部分のうち,「湯~トピア」の部分だけを抽出して,原告商標と比較して類否を判断することは相当ではなく,被告標章のうち,上段部分の,「湯~トピア」と「かんなみ」の部分を分離観察せずに,一体的に観察して,原告商標との類否を判断するのが相当である。・・・

原告商標と,被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である「湯~トピアかんなみ」とを対比すると,・・・称呼及び観念を異にするものであり,また,外観においても著しく異なるものであることが明らかである。

平成 27年 (行ケ) 10058号 審決取消請求事件「エノテカ事件」

被告商標は原告商標に類似しない

原告商標被告商標(本件商標)
以下判示事項

当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)につい て 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,その構成部分全体によ って他人の商標と識別されるから,その構成部分の一部を抽出し,この部分だ けを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として 許されないが,取引の実際においては,商標の各構成部分がそれを分離して観 察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているも のと認められない商標は,必ずしも常に構成部分全体によって称呼,観念され るとは限らず,その構成部分の一部だけによって称呼,観念されることがある ことに鑑みると,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務 の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,そ れ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場 合などには,商標の構成部分の一部を要部として取り出し,これと他人の商標 とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されると解するのが相 当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷 判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5 年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年 (行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

・・・本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とから構成される結合商標であるが,その 外観上,それぞれの文字部分を明瞭に区別して認識することができるこ と,それぞれの文字部分から別異の観念が生じることに鑑みると,本件 商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほ ど不可分的に結合しているものと認められないというべきである。
イ 本件商標の登録査定当時には, 「ENOTECA」 「エノテカ」 原 又は は, 告及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表 示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者 の間に,広く認識され,周知となっていたこと,本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者において,原告の周知の営業表示 としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることは,前 記ア(イ)認定のとおりである。

以上を総合すると,本件商標が「ワインの小売又は卸売の業務について 行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使 用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取 引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象 を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得るものといえる。そうすると,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として 抽出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断すること も,許されるというべきである。

平成 27年 (行ケ) 10171号 審決取消請求事件

本願商標は引用商標に類似しない。下段部分を要部として取り出すことは許されると判示。

本願商標引用商標
以下判示事項

・・・本願商標は,上段部分の「エリエール」と下段部分の「 i:na」及び「イーナ」とから構成される結合商標であるが,上段部分 と下段部分は,外観上明瞭に区別して認識されること,本願商標の下段部分の「i:na」 上段部分の は, 「エリエール」に比して,文字が大きく,かつ,太く表記されており,視覚上強い印象を与えるものであること,さら には,前記ウ認定の取引の実情を考慮すると,本願商標の上段部分と下段 部分はそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど 不可分的に結合しているものとは認められないものであって,その下段部 分は,取引者,需要者に対し,相当程度強い印象を与えるものであり,独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められる。
そうすると,本願商標から下段部分を要部として取り出し,これと引用 商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるものといえる。

平成 27年 (行ケ) 10158号 審決取消請求事件

本願商標は引用商標に類似しない。本願商標から「ROYAL FLAG」の文字部分だけを抽出することは相当でないと判示。

本願商標引用商標
REEBOK ROYAL FLAG
以下判示事項

・・・「ROYAL FLAG」の文字部分は,それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「REEBOK」の文字部分との対比においては,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるということはできず,本件全証拠によるも,このようにいえるだけの事情を認めるに足りない。
エ したがって,本願商標の構成のうち「ROYAL FLAG」の文字部分だけを抽出して,引用商標と比較して類否を判断することは相当ではない。
(3) そうすると,本願商標については,全体として一体的に観察し,又は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「REEBOK」の文字部分を抽出して,引用商標との類否を判断するのが相当である。

平成 26年 (行ケ) 10029号 審決取消請求事件

需要者の間に広く認識された商標A+Bからなる商標と、商標Bとの類否。A+Bの称呼、Aの称呼を生じると判示。

本件商標引用商標
粋(標準文字)
以下判示事項

焼酎を取り扱う業界において,「宝焼酎」が周知性を有し,取引者,需用者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えることに照らすと,引用商標からは,その全体から「タカラショウチュウスイ」又は「タカラショウチュウイキ」という一連の称呼及び「宝焼酎粋」との観念が生じるほか,それだけでなく,「タカラショウチュウ」という称呼及び「宝焼酎」との観念も生じ得るものと認めるのが相当である。

・・・引用商標が「宝焼酎」との文字列と「粋」との文字を上下二段に配しているとはいえ,各文字の大きさ及び書体は同一であって,下段の「粋」の文字は上段の中央の「焼」の文字の直下に配されていることから,全体としてまとまりよく表されていることに照らせば,「粋」の文字部分だけが独立して看者の注意をひくともいいがたい。

平成 25年 (行ケ) 10127号 審決取消請求事件

本願商標の図形は「M」と認識できないと判示。

本願商標引用商標
以下判示事項

2 商標法4条1項11号について

・・・本件図形は,二つのだ円がハートのような形状で重なり合っているデザインにすぎないというべきであり,特定の文字や記号,特定の意味を持つ符号と結び付けることは困難といえる。したがって,本件商標について「メイジ」の称呼が生じるものとは認められず,右側の「eiji」をもって「エイジ」の称呼が生じ,それにより特定の観念は生じ得ないものといえる。

・・・称呼の点において,本件商標は,上記のとおり本件図形が特定の文字と認識できないことからすれば,「エイジ」の称呼が生じることになる。これに対し,引用商標の称呼は「メイジ」であり,本件商標と音節の数が同一である上,第二音,第三音を共通にし,語頭音の母音部分も同じ「e」であるが,「メイジ」の語頭音の子音は「m」で両唇鼻音であって聞き取ることは容易であり,かつ,これが語頭に配されていることからしても,区別することは容易である。そして,三音しかない短い構成の称呼において,最初の一音が異なることによる称呼全体に与える影響は小さくない。したがって,両商標が紛れるおそれはない。

審判番号2022-7277号 拒絶査定不服審判

本願商標は引用商標に類似。

本願商標引用商標
商標の態様 「ANON」の欧文字と「アノン」の片仮名を上下二段に横書きしてなるもの
以下判示事項

・・・本願商標は、別掲のとおり、顕著に表された欧文字「R」の鏡文字(以下「鏡文字」という。)を上段に、これに比して小さく表された「ANON」の文字を下段に、それぞれ配してなる(全ての構成要素は、灰色で表されている。)ところ、鏡文字部分と「ANON」の文字部分とは、二段に配置されていることから、視覚上、分離して観察され得るものである上、大きさの異なる各文字部分が、相互に一定の間隔を空けて、重なり合うこともなく配置されており、それぞれが独立したものであるとの印象を与えるといえる。

・・・ 以上を踏まえると、本願商標は、鏡文字部分と「ANON」の文字部分とが、視覚上分離して看取され、また、観念上のつながりもなく、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいい難いものであるから、それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす要部となり得るものである。
そうすると、本願商標から「ANON」の文字部分を抽出し、他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきであり、本願商標は、その構成文字に相応して「アノン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

結合商標の類否:不服2013-24111号

不服2013-24111
非類似:「baby」の文字部分は指定商品との関係において商品の用途を表示する語と理解される

結合商標の類否:不服2015-20430号

非類似:本願商標中の「アニメ」の文字部分は、その指定商品及び指定役務との関係においては、「アニメーション」を表すものとして理解されるというのが相当であって、本願商標の自他商品・役務の識別標識として認識されるとはいい難いものである。してみれば、本願商標は、その構成全体をもって識別力のある商標として理解される

結合商標の類否:商願2022- 1462拒絶査定不服審判事件

非類似:、上記アと同様に、その構成中の「ナミー」の文字は、そのすぐ上に位置するキャラクター図形の名称又は愛称を表したものと無理なく理解、認識できる・・・外観においては、それぞれの構成中に大きく表されているキャラクター図形の形状や色彩が異なり、明確に区別することができる。

まとめ

例外的に結合商標の構成要素の一部を要部として抽出し、類否判断が許容される事例がある。

本記事は、商標の類否判断について商標の類否判断事例を見やすい形で蓄積しておくことで、結合商標の類否判断の微妙なケースの判断の精度を高めることを目的としています。判例や審決は沢山見ていることはもちろんですが、なるべく利用しやすい形で整理し、蓄積することを考えています。

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