平28(ワ)25436号「アミノ酸生産菌の構築方法」事件

特許権に関する判例

特許権侵害差止等請求事件 東京地裁 一部認容
均等論の第5要件に関し、拒絶理由に対応する補正で除かれた構成について、均等侵害が成立した事案

第4  当裁判所の判断

   (10)  第5要件について(特段の事情)

 本件発明2は変異型yggB遺伝子の由来する菌株や変異前後の具体的なアミノ酸配列を特定しない請求項を含んでいたが,その後,拒絶理由通知を受けて,2度の補正をした結果,登録時の請求項1の記載は,別紙5-1特許請求の範囲(本件特許2)の【請求項1】のとおりとなり,変異型yggB遺伝子の変異前のアミノ酸配列の番号が,コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムを含む。)又はコリネバクテリウム・メラセコーラに由来する配列番号6,62,68,84及び85に特定され,そこに導入される変異の内容も特定され,これによって,本件発明2には,被告製法4のように,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を使用する構成が,文言上,本件発明2の技術的範囲に含まれなくなったことが認められる。

   イ 特段の事情の有無の判断

  (ア) 第5要件において,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,均等の主張は許されないものとしている理由は,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,または外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないというところにある(平成10年最高裁判決,平成29年最高裁判決参照)。

  (イ) 前記アの出願及び補正の経過のとおり,出願時の請求項1は,被告製法4のような,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を使用する構成を含み得るものであったところ,補正によって,そのような構成は文言上本件発明2に含まれなくなったものである。

 (ウ) しかしながら,前記(8)ア(ウ)のとおり,コリネバクテリウム・カルナエDSM20147株の全ゲノム及びyggB遺伝子のアミノ酸配列の解析がされて利用可能となったのは平成25年3月頃以降であり,本件優先日2である平成16年12月28日の時点,あるいは,本件特許2の出願日である平成17年12月28日の時点において,コリネバクテリウム・カルナエのyggB遺伝子のアミノ酸配列を特定することはできなかったものである。そうすると,前記(8)ア(イ)のとおり,本件優先日2より前から,コリネバクテリウム・カルナエがグルタミン酸生産菌であり,コリネバクテリウム・グルタミカムと近縁の細菌であることが知られていたことを考慮しても,本件発明2の出願時において,出願人である原告が,本件発明2の課題を解決し得るような,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を用いた具体的な構成を特定し,サポート要件その他の記載要件を満たす形で特許請求の範囲に記載することが容易に可能であったとは認められない。

  (エ) また,前記アのとおり,出願時の請求項1は,概括的に「L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌」という以上に菌種を特定しない記載をしたものであり,特に,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を使用する構成を記載したものではなく,本件明細書2におけるコリネバクテリウム・カルナエへの言及も,本件発明2のコリネ型細菌として利用可能な細菌の例(【0012】,【0013】)として挙げられているものに留まり,コリネバクテリウム・カルナエ由来のyggB遺伝子を使用した構成についての言及は補正の前後を通じて本件明細書2ではされていない

  (オ) 前記(ウ)及び(エ)の事情に照らせば,前記(イ)の出願及び補正の経過をもって,客観的,外形的に見て,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を使用する構成を特許請求の範囲からあえて除外する旨が表示されていたとはいえず,その他,本件全証拠によっても,被告製法4について,第5要件に係る,特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとは認められない。

今後に生かすポイント

 諸外国において、flexible barの考え方に基づき、形式要件に基づいてクレームが限定された場合に、特許権者が主題を選択して限定したとみなさず、均等論の成立を肯定する判決が出ている。本判決においてもこのような考え方に沿うものであり、拒絶理由に対応する補正で除かれた構成であっても、柔軟に判断し、特許請求の範囲から意識的に除外されたものには当たらないと判断した。従って、審査経過で補正で除かれた構成であっても、均等侵害が成立する可能性があるので、慎重に審査経過を確認する必要がある。

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