平31(ネ)10003号「美容器」事件

特許権に関する判例

特許権侵害差止等請求控訴事件 知財高裁
損害の額の推定について大合議により判示された事案

 7  一審原告の損害額(争点(5))について(下線は筆者が追加)

    (1)  特許法102条1項について

  特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,特許法102条1項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。

  特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。

  また,「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は,特許権者等の実施の能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。

  さらに,特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については,侵害者が主張立証責任を負い,このような事情の存在が主張立証されたときに,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものである。

    (2)  侵害の行為を組成した物の譲渡数量

    ア 前記3ないし5のとおり,被告製品の譲渡行為は,本件特許権2を侵害するものであり,被告製品は「侵害の行為を組成した物」に該当する。

    イ 一審原告が本件訴訟において損害賠償請求をしている不法行為の期間である平成27年12月4日から平成29年5月8日までの期間(以下「本件侵害期間」という。)の被告製品の譲渡数量は下記のとおりであり,被告は総計35万1724個,月平均2万0690個程度の被告製品を譲渡したことになる(争いがない。)。

  被告製品1(DR-250A) 7万1077個

  被告製品2(DR-250C) 14万1135個

  被告製品3(FS-800) 1万5114個

  被告製品4(DR-250P) 8万2584個

  被告製品5(DR-250G) 1万8526個

  被告製品6(DR―250SW) 8263個

  被告製品7(JDR-300) 416個

  被告製品8(DR-260BK) 6088個

  被告製品9(DR-260C) 8521個

    ウ 被告製品は,ディスカウントストアや雑貨店に卸売販売されることが中心であり,一審被告作成の文書では1万5000円(税抜)の価格表示がされているものが多いが(甲7~13),実際には,3000円ないし5000円程度の価格で販売されている(乙85~93)。

  被告製品は,ゲルマニウムの粒を使用したゲルマミラーボールと説明されているが,後記の原告製品のように微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構は有していない(甲7~13)。

    (3)  侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額

    ア 侵害行為がなければ販売することができた物

  前記(1)のとおり,「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は,本件発明2の実施品として,「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の美容器(以下「原告製品」という。)を,平成21年2月以降販売しており(甲23,24,弁論の全趣旨),原告製品は,「侵害行為がなければ販売することができた物」に当たることは明らかである。

  原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器(弁論の全趣旨)であり,搭載されたソーラーパネルにより,微弱電流(マイクロカレント)を発生する機構を有している(甲23)。

  原告製品は,原告の店舗,大手通販業者,百貨店,家電量販店で販売され,希望小売価格である2万3800円(税抜)又はこれに近い価格で販売されている(甲23,乙94~108)。

  一審原告は,平成27年10月から平成29年8月までの間に,125万6410個の原告製品を販売しており(月平均5万4626個〔1個未満切り捨て〕),最も少ない月(平成28年1月)でも1万8770個,最も多い月(平成28年12月)には8万5492個を販売した(甲38)。

    イ 単位数量当たりの利益の額の意義

  前記(1)のとおり,特許法102条1項所定の「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から,特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。

    ウ 原告製品の限界利益の額

  (ア) 売上高及び製造原価

  平成27年10月から平成29年8月までの間の原告製品の販売数量は125万6410個,売上高は合計132億4606万1089円であり,製造原価は●●●●●●●●●●●●●である(甲38,39)。

  (イ) 製造原価以外の控除すべき費用

   a 前記(ア)の期間における一審原告の全製品の売上高は合計671億0968万1552円であり(甲40),一審原告の全製品に対する原告製品の売上比率は19.74%となる(132億4606万1089円÷671億0968万1552円≒0.1974)。

   b また,前記(ア)の期間における原告製品が含まれる「ReFa」ブランドの製品全体の売上高が342億0958万6196円であり(甲28),同売上に占める原告製品の売上比率は38.72%となる(132億4606万1089円÷342億0958万6196円≒0.3872)。

   c 前記(ア)の期間における原告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用は,前記(ア)の製造原価のほか,後記①~⑨のとおりであり,その額は,①,③,④,⑥~⑨については,一審原告の全製品について生じた各費用(甲40)に前記aの比率を乗じた額であり,②及び⑤については,「ReFa」ブランドの製品について生じた各費用(甲32,33)に前記bの比率を乗じた額である(1円未満切り捨て)。

  ① 販売手数料 ●●●●●●●●●●●●

  ② 販売促進費 2億5798万4777円

  ③ ポイント引当金 741万7870円

  ④ 見本品費 5343万9379円

  ⑤ 宣伝広告費 5億2075万3024円

  ⑥ 荷造運賃 4億5578万0084円

  ⑦ クレーム処理費 6548万5934円

  ⑧ 製品保証引当金繰入 590万2260円

  ⑨ 市場調査費 1038万5182円

  ①から⑨までの合計額 ●●●●●●●●●●●●●

   d 一審被告は,原告製品の売上高から,一審原告の全ての費用を,原告製品の売上比率に従って控除すべきであると主張する。

  しかし,前記(1)のとおり,特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を上記の損害額としたものである。このように,同項の損害額は,侵害行為がなければ特許権者等が販売できた特許権者等の製品についての逸失利益であるから,同項の「単位数量当たりの利益の額」を算定するに当たっては,特許権者等の製品の製造販売のために直接関連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく,管理部門の人件費や交通・通信費などが,通常,これに当たる。また,一審原告は,既に,原告製品を製造販売しており,そのために必要な既に支出した費用(例えば,当該製品を製造するために必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も,売上高から控除するのは相当ではないというべきである。

  一審被告が,売上高から控除すべきであると主張する上記費用のうち,前記cの①~⑨の費用以外の費用は,全て上記の売上高から控除するのが相当ではない費用に当たるというべきであるから,一審被告の上記主張は理由がない。

  (ウ) 原告製品の限界利益の額は,原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア)の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円であり,これを,前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546.03円。1円未満切り捨て)となる。

  (エ) 前記第2の2で認定した本件発明2の特許請求の範囲の記載及び前記1で認定した本件明細書2の記載からすると,本件発明2は,回転体,支持軸,軸受け部材,ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが,軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下,この部分を「本件特徴部分」という。)。

  原告製品は,前記アのとおり,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから,本件特徴部分は,原告製品の一部分であるにすぎない。

  ところで,本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。

  そして,原告製品にとっては,ローリング部の良好な回転を実現することも重要であり,そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の内周面の形状も,原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。

  しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器であるから,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められる。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。

  そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。

  この点に関し,一審被告は,原告製品全体の製造費用に占める軸受けの製造費用の割合を貢献の程度とすべき旨主張するが,上記の推定覆滅は,原告製品の販売による利益に対する本件特徴部分の貢献の程度に着目してされるものであり,当該部分の製造費用の割合のみによってされるべきものではない。また,一審被告は,原告製品においては,ローラの抜落の防止機能が不十分であるから,軸受けの貢献度は低い旨主張するが,一審被告が根拠とする乙138(原告製品に関するブログの記載)から,原告製品においてローラの抜落の防止機能が不十分であると認めることはできず,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。よって,上記主張はいずれも採用できない。

  以上より,原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては,原告製品全体の限界利益の額である5546円から,その約6割を控除するのが相当であり,原告製品の単位数量当たりの利益の額は,2218円(5546円×0.4≒2218円)となる。

    (4)  実施の能力に応じた額

  特許法102条1項は,前記(1)のとおり,侵害者の譲渡数量に特許権者等の製品の単位数量当たりの利益の額を乗じた額の全額を特許権者等の受けた損害の額とするのではなく,特許権者等の実施の能力に応じた額を超えない限度という制約を設けているところ,この「実施の能力」は,潜在的な能力で足り,生産委託等の方法により,侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり,その主張立証責任は特許権者側にある。

  そして,前記(3)アのとおり,一審原告は,毎月の平均販売個数に対し,約3万個の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから,この余剰能力の範囲内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当である。

  したがって,一審原告は,一審被告が本件侵害期間中に販売した被告製品の数量の原告製品を販売する能力を有していたと認められる。

    (5)  一審原告が販売することができないとする事情

    ア 前記(1)のとおり,特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以下「販売できない事情」という。)があるときは,販売できない事情に相当する数量に応じた額を控除するものとすると規定しており,侵害者が,販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には,同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。

  そして,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当するというべきである。

   イ 以下,一審被告が販売できない事情として主張する事情について検討する。

  (ア) 一審被告は,原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を,販売できない事情として主張する。

   a 本件においては,前記(2)ウ,(3)アのとおり,原告製品は,大手通販業者や百貨店において,2万3800円又はこれに近い価格で販売されているのに対し,被告製品はディスカウントストアや雑貨店において,3000円ないし5000円程度の価格で販売されているが,このように,原告製品は,比較的高額な美容器であるのに対し,被告製品は,原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程度の廉価で販売されていることからすると,被告製品を購入した者は,被告製品が存在しなかった場合には,原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきである。したがって,上記の販売価格の差異は,販売できない事情と認めることができる。

  そして,原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからすると,同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと認められる。

  一方で,上記両製品は美容器であるところ,美容器という商品の性質からすると,その需要者の中には,価格を重視せず,安価な商品がある場合は同商品を購入するが,安価な商品がない場合は,高価な商品を購入するという者も少なからず存在するものと推認できるというべきである。また,前記(3)アのとおり,原告製品は,ローラの表面にプラチナムコートが施され,ソーラーパネルが搭載されて,微弱電流を発生させるものであるから,これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高いということができ,したがって,原告製品は,その販売価格が約2万4000円であるとしても,3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると,原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。

   b このように,原告製品と被告製品との価格の差異は,需要者の購入動機に影響を与えているといえるが,大手通販業者や百貨店において商品を購入する者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験則があるとは認め難いから,価格の差を離れて,原告製品と被告製品の上記販売態様の差異が,需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず,販売態様の差異は,販売できない事情として認めることはできないというべきである。

  (イ) 一審被告は,競合品が多数存在することを,販売できない事情として主張する。

  平成31年4月の時点で,原告製品と被告製品の同種の製品として,少なくとも29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176,弁論の全趣旨)が,本件証拠上,本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に,市場において,原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りないから,この点を,販売できない事情と認めることはできない。

  (ウ) 一審被告は,本件発明2は軸受けについての発明であるところ,被告製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず,軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。

  しかし,本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は,既に原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから,重ねて,これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。

  (エ) 一審被告は,軸受けの部分は外見上認識することができず,代替技術が存することなどを販売できない事情として主張する。

  しかし,一審被告の主張する上記の事情は,被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまるものであるから,同事情の存在によって,被告製品がなかった場合に,被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず,したがって,これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。

  (オ) 一審被告は,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しているが,被告製品はそのような機構を有していないことを販売できない事情として主張する。

  確かに,前記(3)アのとおり,原告製品は,微弱電流を発生する機構を有しており,一方で,被告製品はそのような機構を有していないが,このことは,被告製品は,原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから,被告製品が存在しなかった場合に,その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって,上記の点は,販売できない事情と認めることはできない。

  (カ) 一審被告は,一審被告の営業努力を,販売できない事情として主張するが,本件証拠上,一審被告に,販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努力があったとは認められない。

    ウ 以上によれば,本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情を考慮すると,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相当である。

    (6)  本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について

  前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定はなく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない。

    (7)  損害額の算定

  以上からすると,特許法102条1項による一審原告の損害額は,被告製品の譲渡数量35万1724個のうち,約5割については販売することができないとする事情があるからその分を控除し,控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの利益額2218円に乗じることで,3億9006万円(2218円×35万1724個×0.5≒3億9006万円)となる。

  また,一審被告による本件特許権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,認容額,本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考慮して,5000万円と認めるのが相当である。

  したがって,一審原告の損害額は,合計で4億4006万円となる。

第5  結論

  以上のとおりであって,一審原告の請求は,一審被告に対して,被告製品の譲渡等の差止め,被告製品の廃棄,並びに損害金4億4006万円及びうち3810万円に対する平成28年6月15日から,うち405万円に対する平成29年8月26日から,うち2億5785万円に対する同年11月17日から,うち1億4006万円に対する令和元年5月15日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。これと一部異なる原判決を一審原告の控訴及び訴えの変更に基づき変更し,一審被告の控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

今後に生かすポイント

 特許法102条1項の損害の額の推定について特許法102条1項の文言「侵害行為がなければ販売することができた物」、「単位数量当たりの利益の額」、「実施の能力」、「販売することができないとする事情」の解釈等が判示されており、損害の額の推定を考える上での指針となる。

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