
2023年、令和5年に商標法に大きな改正がありました。特許庁のHPにも、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が6月14日に法律第51号として公布されたことが公表されています。なお、この法律の施行日は一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日となっています。
氏名を含む商標の登録要件が緩和されました。
商標法第4条1項第8号は、他人の氏名を含む商標についてはその他人の承諾を得ている場合を除き登録できないことを規定しています。
すなわち、他人の承諾を得ている場合には、登録が可能となるのですが、日本全国の同姓同名の方全員の同意が必要とされ、同意を得る事が非常に困難だという問題がありました。
また、ローマ字表記や片仮名表記の場合にも同意が必要であり、その場合にはさらに同じ読みの方全員の同意が必要とされ、同意を得る人数がさらに増えるという問題もありました。
他方、アパレルのブランドや一定の業界においては、氏名を自己の事業活動の目印として使用しているケースが多くあります。自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標として利用できるよう、氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能にする趣旨で改正が行われました。
改正された商標法第4条1項8号は「他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの」です。
すなわち、改正された商標法第4条1項8号によれば、他人の氏名のうち、商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名、を含む商標は登録できないとしています。
従って、他人の氏名であっても、需要者に広く知られていない氏名を含む商標は、商標登録を受けられる可能性がでてきます。
なお、第三者の悪用を防止する等の目的で「政令で定める要件に該当しないもの」等の要件も規定されていますので、追って政令でどのように規定されるかについてさらに注視していくことが必要です。
実務的な影響
改正された商標法第4条1項8号により、自己の名前で事業活動を行う者等がその名前を商標登録して保護できる可能性が増えますので、氏名を含む名前を使用している事業者にとって、商標登録が取れる可能性が広がります。これまで商標登録が難しかった氏名を含む商標について、商標登録が取れる可能性が新たに拡大されますので、氏名を含む名前を使用している事業者にとってはチャンスともいえます。商標登録は早い者勝ちの制度でもあるため、気になる場合には早めに検討をされてもよいかもしれません。なお、令和5年改正の施行日は、公布の日(令和5年6月14日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日です。

