会社の事業形態の変更、事業の譲渡、M&A、事業承継、会社の清算等に伴い、商標権を移転する必要が生じる場合があります。商標権を移転したい場合(特定承継による場合)には、移転登録申請書等を提出します。商標権や特許権等の権利は、特許庁の登録原簿に登録されています。そして、このような権利を移転するためには、正式な手続きを踏む必要があります。従って、簡単に、移転登録申請書を提出すればよい、というものではありません。以下に、商標権を移転する場合に必要な書類の1例を説明します。例えば、代理人に手続きを頼む場合には、以下のような書類が必要となります。
1. 商標権移転登録申請書
2. 譲渡証書
3. 譲渡証書の譲渡人の印鑑証明書
4. 個別委任状(譲受人)
5. 個別委任状(譲渡人)
6. 登録義務者(法人)の代表者と登録権利者(法人)の代表者が同一者である場合等、一定の場合には利益相反行為に該当しないことを証明する書類の提出や、利益相反行為に該当する場合には、株主総会等の承認が必要となります。
また、これらの書面は、オンラインでは手続きできず、特許庁窓口または郵送で提出する必要があります。書類に不備があれば、特許庁から「補正指令」や「却下理由通知」がくることもあります。申請後、順調に進んでも約1月から約2月はかかる手続きになります。本人が行ってもできないことはないですが、少しでも不備があれば補正指令がかかったり、厳格な手続きになりますので、基本的には代理人に頼む方が安全且つ迅速に手続きを進めることができます。以下、それぞれの書類について注意すべき項目の例(他にもあるためあくまでも一例です)を挙げています。
商標権移転登録申請書について
商標権の移転であれば、30,000円の収入印紙を添付します。登録権利者及び登録義務者の住所、名称、代表者等を正確に記述する必要があります。ここで、識別番号の記載による住所の省略はできませんし正確な記載である必要があります。弊所では正確な登録住所等の確認のため特許庁から登録原簿を取り寄せています。登録原簿上に登録されている住所(居所)・氏名(名称)から現在の住所等が変更されている場合、この申請と同時に表示変更登録申請をさらに提出する必要が生じます。添付書面の目録についても、添付書面を正確に記載する必要があります。
譲渡証書について
基本的には、実印を押印した原本の提出が必要です。譲渡証書にも収入印紙を添付しますが、こちらは印紙税法に基き、契約金額に基いて金額が決まります。譲渡証書でも譲受人及び譲渡人のそれぞれの住所、名称、代表者等を正確に記述する必要があります。また、譲渡人については実印の押印が必要となります。また、利益相反行為等に関連して譲渡が無償で行われたことを示すのであれば無償譲渡であることを記載しておく場合もあります。
譲渡証書の譲渡人の印鑑証明書について
登記所(法務局)に登録済みの実印の印鑑証明書を提出します。印鑑証明書等は、発行日(作成日)から3カ月以内のものが必要です。
個別委任状(譲受人)について
代理人が付けば、登録済通知書、手続補正指令書、却下理由通知書、手続却下の処分の謄本、原因書の返却等の送付先を代理人とすることができます。代理人であれば、これらの通知が来ればすぐ意味を理解できますし、迅速に対応が可能となります。代理人は、申請書への押印は不要です。代理人も識別番号による住所の省略ができない点は注意が必要です。包括委任状等により対応することもできます。
個別委任状(譲渡人)について
代理人が付けば、登録済通知書、手続補正指令書、却下理由通知書、手続却下の処分の謄本、原因書の返却等の送付先を代理人とすることができます。代理人であれば、これらの通知が来ればすぐ意味を理解できますし、迅速に対応が可能となります。代理人は、申請書への押印は不要です。代理人も識別番号による住所の省略ができない点は注意が必要です。包括委任状等により対応することもできます。移転登録に関しては、同一の代理人が登録権利者及び登録義務者双方の代理人となることが可能です。
利益相反行為について
利益相反行為について対応が必要なケースが多くあります。
特許庁で示されている事例では、甲会社(代表取締役A)が所有する特許権を乙会社(代表者取締役A)に譲渡する場合等、一定の場合には利益相反行為に該当しないことを証明する書類の提出が必要になります。
会社法第356条及び第365条等に定める、取締役と会社間の取引制限を利益相反行為といい、具体的には、取締役が自己の利益を得、その会社が不利益を被るような取引(自己取引)を行う場合に問題となります。
利益相反行為に該当する場合、株主総会等の承認が必要です。
取締役会設置株式会社の場合であれば、(1)取締役会議事録または取締役会承認書、(2)取締役会開催日以降に認証された、開催時の取締役・監査役全員の記載及び「取締役設置会社」の登記のある登記事項証明書、が必要です。
表面的には利益相反行為だが、実質的には利益相反行為には該当しない場合には、その旨を証明する書類が必要です。
例えば、完全親子会社(100%の株式を有する関係)間の取引であれば、(1)契約日時点のものについて代表者により証明された株主名簿、(2)株主名簿の認証日以降に認証された、発行株数の記載のある登記事項証明書、を提出します。
もちろんこれは1例に過ぎず、会社の態様や事案に合わせて必要書面が変わってきます。
まとめ
以上のように、商標権の移転については、かなりの書類を準備して行う必要があります。そして、オンラインでは手続きできず、特許庁窓口または郵送で提出する必要があります。申請後、順調に進んでも約1月から約2月はかかる手続きになります。書類の準備に関しても、取締役会議事録が必要になるようなケースもあります。ちょっと書類を提出すればよいというものではなく、厳格な手続きが要求されます。余裕を持って弁理士等の専門家に依頼されることをお勧め致します。商標権の移転に関し、少しでもイメージが湧きましたら幸いです。