歴史上の人物、武将の名前等の周知・著名な故人の人物名に関する商標登録について

歴史上の人物、武将の名前等の周知・著名な故人の人物名に関する商標登録について、商標登録を取れるのか取れないのか、どういった審査がなされるのかについて知っておく必要があります。

商標法において、現存する者以外の人物名の商標について商標登録を禁止する明文の規定が存在していません。しかしながら、歴史上の人物、故人、武将の名前に関する商標登録が、特定の者によりなされると、公共の利益を損なう恐れがある場合があり、商標登録を取れないようにしているという考え方もあります。このような考え方の理解に役立ちます。

目次

商標法4条1項7号(公序良俗違反)の枠組み

歴史上の人物、故人、武将の名前に関する商標登録については、主に商標法4条1項7号(公序良俗違反)の枠組みの中で検討されます。歴史上の人物、故人、武将の名前に関する商標登録について商標法4条1項7号に該当する場合には拒絶されます。なお、商標法で規定されている拒絶理由に該当する場合には、拒絶理由の規定に基づいて拒絶される点は、他の商標と変わりません。

歴史上の人物、故人、武将の名前に関する商標登録については、主に商標法4条1項7号(公序良俗違反)の枠組みの中で、商標審査基準及び商標審査便覧42.107.04等の規定に基づいて審査されます。

商標審査基準

商標審査基準には、商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する例として、「周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。」と記載されています。

従って、歴史上の人物、故人、武将の名前に関する商標登録出願を行った場合には、商標法4条1項7号に関しては、「周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。」に拒絶理由を受けることになります。より深く判断基準を知る上では、商標審査便覧が参考になります。

商標審査便覧42.107.04

商標審査便覧42.107.04には、歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱1.及び2.について記載されています。

取扱1.

歴史上の人物名からなる商標登録出願の審査においては、商標の構成自体がそうでなくとも、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条第1項第7号に該当し得ることに特に留意するものとし、次に係る事情を総合的に勘案して同号に該当するか否かを判断することとする。

(1)当該歴史上の人物の周知・著名性
(2)当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
(3)当該歴史上の人物名の利用状況
(4)当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
(5)出願の経緯・目的・理由
(6)当該歴史上の人物と出願人との関係

例えば、「(1)当該歴史上の人物の周知・著名性」については、以下のような内容を考慮します。

「歴史上の人物」には、現存する者は含まれず、周知・著名な実在した故人をいい、外国人も含まれる。
「人物名」には、フルネーム(正式な氏名)も、また、略称・異名・芸名等も含まれ得るが、いずれも特定の人物を表すものとして広く認識されているものでなければならない。また、歴史上の人物名の名声、評価、顧客吸引力の高さ
出願人の認識(歴史上の人物名の名声等を承知していたか否か、便乗を目的としていたかなど)を判断するための情報も考慮する。

同様に、(2)~(6)についても、詳細は割愛しますが、考慮すべき内容を確認が必要です。

取扱2.

上記取扱1.に係る審査において、特に「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」と認められるものについては、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。

このような取扱いの背景の諸事情として、「周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情が多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。」等と記載されている。

よって、上記取扱1.に関する審査において、公益的な施策等の遂行を阻害する、公共的利益を損なう、ような態様での商標登録出願は認められないことに注意が必要です。

頼朝関連の登録例

例えば、著名な歴史上の人物の名前の一部にもある用語「頼朝」を見てみます。

JPLATPATで商標(検索用)に?頼朝?を入れて「頼朝」の文字を含む登録例を見てみると、8件の登録例が出てきます。

頼朝十字 第6530507号 有限会社三日月堂花仙
源頼朝\巻狩の地\富士宮 第6570410号 富士宮市
頼朝杉 第6727466号 前井 宏之

等は登録できていることが分かります。

頼朝関連の拒絶例

逆に、拒絶例を見てみます。過去の拒絶例を見てみると以下の様なものがあります。

頼朝桜

フルーツ・フロート\▲頼▼朝の一杯水 (二段書きで頼の漢字が異なっています)

名高百勇傳\みなもとのより とも\源頼朝∞一勇斎\國芳画∞鎌倉\紅谷 (絵画風に頼朝が描かれ説明が付されています)

義経関連の登録例

例えば、著名な歴史上の人物の名前の一部にもある用語「義経」を見てみます。

JPLATPATで商標(検索用)に?義経?を入れて「義経」の文字を含む登録例を見てみると、25件の登録例が出てきます。登録例の一部を示します。

義経鎧 第789230号 村上恭雄
ジンギスカン義経 第5953627号  廣瀬美代子
義経花伝 第5793218号 株式会社クリエイティブ テクノロジー
義経焼 第5785066号 有限会社羊肉のなみかた
義経物語 第5435417号 株式会社サンセイアールアンドディ
義経の澄酒 第4894268号  世嬉の一酒造株式会社
義経の道 第4876775号 株式会社アルペン
義経の妻郷御前 第4871864号 有限会社くらづくり本舗
義経記 第4871643号 両磐酒造株式会社

等は登録できていることが分かります。

義経関連の拒絶例

逆に、拒絶例を見てみます。過去の拒絶例を見てみると以下の様なものがあります。

義経ITクラブ 
義経紅桜
義経千本桜だんご
福 銭∞義経弁慶焼鍋 (図形との結合でも該当)
みなもとのよしつね\源義経
義経
義経弁当

まとめ

歴史上の人物、武将の名前等の周知・著名な故人の人物名に関する商標登録の考え方や登録例等も見てきました。見て頂くとわかるように、「頼朝」の文字を含みながらも登録されているものと拒絶されているものとに分かれています。「頼朝」の文字を含むから画一的に登録できないという判断がされるわけではなく、個別具体的に判断されていることが分かります。同様に「義経」の文字を含みながらも登録されているものと拒絶されているものとに分かれています。

実際には、当該人物名の利用状況や指定商品との関係等、様々な要因を考慮しての微妙な判断になることも多いです。

歴史上の人物、武将の名前等の周知・著名な故人の人物名に関する商標については、このような背景を理解した上での戦略も必要です。

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